座面昇降機能について

 座面の高さを調整する機能は、オフィスチェアの最も基本的な装備といえます。この機能は長時間のデスクワーク用に設計されたオフィスチェアに留まらず、ミーティングチェアのちょっと気の利いたものや、あるいはいわゆる丸イスなどにも備わっている場合まであります。逆に、オフィスチェアで座面の高さを調整できないものは、ほぼないものと思ってしまっていいでしょう。

日本人は椅子の上に座っていることができなかった。

 さて、少々唐突ですが、ここでひとつ、椅子にまつわる笑い話をご披露しましょう。



 かのペリー提督が黒船で来航した年と同じ1853年(嘉永6年)の12月8日、長崎の出島でロシアの使節プチャーチンが江戸幕府の要人と会見しました。この時に困ったのがお互いの座り方。ロシア人が畳の上に5分と座っていられなかったのと同じように、日本人も椅子の上に座っていることができなかったというのです。プチャーチンの秘書ゴンチャロフは、日本人がいかに椅子に不慣れであるかを、著書『日本渡航記』に書き記しているといいます。曰く、「日本人は椅子に座ることに慣れないために足が痺れるのである」と。この場面の続きが気になるところです、結局どのような会見になったのでしょうか。お互い立っての対面だったかもしれませんね。



 この逸話に見られるように、江戸時代まで椅子は日本一般に普及しておらず、そのため「椅子に座る」という生活習慣もなかったのです。つまり、日本にチェアとデスクが入ってきたのは、ほんの150年ほど前という事になります。一方、欧米での歴史は長いです。「玉座」という言葉が生まれた頃には、チェアもデスクもすでにあったはずです。

オフィスでのチェアとの関わり方は

 さて、その後の150年で、日本人はチェアに座れるようになったのでしょうか? これは、捉え方によるかと思われます。さすがに5分くらいは座れるようになりましたが…。



 西洋文化が入ってくる以前、日本人の生活は、より自分の身体性に即した、諸々の工夫を織り込んだものだったと考えられます。例えば長時間の正座にも、脚・腰の据え方や足の指の組み方、あるいはちょっとした小道具などで適応してきた歴史があります。古武術や伝統芸能や農作業を思い浮かべても、昔の人がいかに巧みに体を“使って”いたかに感銘を覚えます。机に向かって正座して執務するにあたっても、使う道具といえば紙・筆・そろばんと、シンプルな道具を上手に使っていました。

 現代を改めて振り返ってみるとどうでしょう。オフィスで働く我々は、規格で定められたサイズのデスクの上に、大きくて重たいPCを乗せ、よくわからない配列のキーボードを叩いています――オーダーメイドではないチェアに座って。これを長時間ストレスなく行えているかと考えると、ちょっと首をひねりたくなります。

切っても切れないオフィスと座面昇降

 人間の骨格は、脊椎と大腿骨を90°に曲げて長時間姿勢を保持できる構造になっていないものです。座面が水平のチェアに座っていると、腰椎への負担を軽減するため、人間の体は必ず背骨を丸めた猫背の姿勢を取ろうとするのです。さらに、オフィスのデスクは高さの規格が決まっており、しかも人間の体は一人ひとり異なっています。

 そのためオフィスチェアは、デスクの高さと自分の座る姿勢(椅座:いざ)とのバランスが取れるよう、せめて座面の高さが調整できないと用をなさないんですね。それゆえに、座面昇降機能は、オフィスチェアの基本条件であるわけです。さらにいうなら、椅座に留まらず、執務中・休憩時・ミーティング中と、オフィスで過ごす時間には様々なシーンが発生します。その時その時に応じて、適した姿勢を取れる座面の高さは異なるかもしれないのです。自分にとって最適な高さを、ぜひ色々とお試しください。机や身長などとの組み合わせにより、座面が高すぎて足がぶらさがってしまう場合には、フットレストやオットマンの使用がお薦めです。逆に低すぎる場合は、腰や尻に負担がかからないように足を伸ばして座ってしまうのもいいでしょう。オフィスシーティングには、まだまだ工夫の余地があると思います。

一般的にいわれている目安

 一般的には、お尻・背中・太腿・足の裏のそれぞれに、ほどよく自重荷重が分散する状態がよいとされています。具体的には、ふくらはぎと太腿が直角となり、足の裏が地に着くという座面の高さです。その他の目安としては、(自分の身長)×0.25 = (座面の高さ) というのもあります。身長160cmのかたなら、座面高さは40cmになる計算です。ご参考くださいませ。

中古オフィスチェアの座面昇降

 オフィスチェアの座面昇降機能は、ガス圧式シリンダーを用いているのが主流です。中古チェアの場合、ガスが抜けて圧力が低下している場合がままあります。お買い求めの前には、座面高さ調整が利いているか、よくお確かめください。

 なお社団法人日本オフィス家具協会(JOIFA)の『オフィス家具PL対応ガイドライン』は、「可動部」に分類される昇降機能のメーカー無償保証期間を、最初のユーザーさまのご購入日から起算した2年間としています。