キャスターつきチェアの歴史

 少し解釈を拡大して、キャスター(つまり車輪)がついたチェア(いす)、即ち車いすの発祥を考えてみると、早ければ車輪といすがそれぞれ文明に登場していた頃には車いすが発案されていた可能性が充分あります。実際に資料を当たってみても、遅くとも1600年代ごろには実用化されていた事がわかります。ヨーロッパでは18世紀初頭から車いすが商業的に製造されていた、とする研究もあるようです。曰く、当時の認識は「車いすは体に不自由がある人の乗り物」という現代の常識とは異なっていたというんですね。車いすはもちろん不自由な人も使いましたが、健常な人もまた利用した便利道具だったのだという事です。



 そう考えると、世界に「オフィス(執務室や事務所)」というものが生まれた時点で、すでにキャスターつきのチェアは存在していたといえなくもありません。車いすに座って執務すれば、立派なオフィスチェア・キャスターつきといえます。もちろん、これは少々強引な考え方です。とはいえ、オフィスで使うチェアにキャスターをつけるという発想そのものは早い段階からあった事でしょう。



 1905年に発行されている『Tools of Business, An Encyclopedia of Office Equipment and Labor Saving Devicees』という書物を紐解くと、まだアメリカでもオフィスデスクが木製だった当時、やはり木製のオフィスチェアに、小さくはありますがキャスターがついている絵が挿入されています。本文を読んでも、チェアの様々な調節機能こそ言及されていますが、キャスターについては特に触れられていません。この事から、20世紀初頭の時点で、オフィスチェアにキャスターがついている事は常識的になっていた事が伺えます。

 ただし、同資料では、当時キャスターの素材に何が使われていたかまでは判然としません。天然ゴム自体はコロンブスにより1490年にはすでにヨーローッパにもたらされていますが、ゴムキャスターの登場には、早くとも1839年に発明された加硫法によるゴムの弾性改良を待たなければなりません。よって、オフィスチェアに最初に付属されたキャスターは、金属製であったろうと想像されます。



ゴムキャスターの特性

 加硫法の発明後、1887年アイルランド獣医ジョン・ボイド・ダンロップが空気入りタイヤを考案し、それ以降工業用材料としてゴムの需要が拡大しました。合成ゴムが開発されたのは比較的新しく20世紀になってからです。東南アジアに天然ゴム生産の拠点を持たず生ゴムの入手に苦労したアメリカやドイツが開発の中心になりました。



 ゴムには反発弾性があり、床面の凹凸もある程度吸収します。しかし油類・薬品類には弱く、また経年により硬化・劣化していきます。また、摩耗粉が擦れ付いて床面を汚す場合があり、ゴム材に練りこまれた薬品と床材とが化学反応を起して変色する場合があります。 油類・薬品類に比較的強い特別な配合のゴム材もあり、用途により使い分けられます。Pタイルのように硬くて滑りやすい床や、傷つきやすい木質のフローリングにはゴムキャスターが適しています。



終わりに

 「オフィスチェアのキャスターは消耗品である」とご認識されてよいと思います。ナイロンキャスターに比べて柔かいゴムキャスターでも、接地面積はほぼ点に等しいのです。オフィスチェアの重量にユーザーさまの体重を加えた重さを、わずか5点で支えています。ゴムキャスターの場合、点にかかる荷重を17㎏/cm2とする計算もあり、これは同計算によるフォークリフトの10㎏/㎝2を上回っています。加えて、ゴムキャスターは経年による劣化が大きい点も無視はできません。



 各メーカーともキャスター単品での販売を行っておりますので、必要に応じてお問い合わせください。