オフィスチェアの外観と性能との関係性

 ある程度オフィスチェアに見慣れてくると、数々のオフィスチェアも3種類に大別できるかと思われます。



(1)外観から特徴のあるチェア

(2)外観に特徴は感じられないが、座ってみると違いがわかるチェア

(3)外観に特徴もないし、座ってみても違いがわからないチェア



なお、「外観に特徴があるが、座ってみると違いがわからない」オフィスチェアも想定されますが、これは仮に開発されても早晩に市場で淘汰されるだろう事が容易に想像されます。そのためか、これに分類されるようなチェアは俄かに思い起こされません。

 さて上記(1)・(2)・(3)についてですが、95年前後に各メーカーからそれぞれ発売された超ロングラン製品は、いずれも普及品として一定の完成度を持っていました。その一方、外観に関しては概して似たり寄ったりであった感があります(3)。そこで、各メーカーとも、それぞれの雛形を元に、他社との差別化を図りつつ、様々な機能を搭載していきました(2)。その後、機能性の試行錯誤はチェアの構造そのものの大きな見直しまで発展し、外観からして他シリーズとは異なる姿を呈する製品が出現する事になります(1)。ざっくりといえば、オフィスチェア市場は(3)→(2)→(1)の順で製品を充実させてきている流れがあります。各社のカタログを参照しても、(3)→(2)→(1)の順で価格帯が上昇する傾向が見て取れます。



 その中で、やや異彩を放っているのがイトーキです。イトーキのオフィスチェアは、比較的に低価格帯から外観に特徴のあるものが現れる傾向があります。本稿で取り上げますトリノチェアもそのひとつです。



トリノチェアの外観と着座感

 トリノ以上に直線的なフォルムを持つオフィスチェアもそうそうないでしょう。曲線・曲面とおよそかけ離れたトリノチェアの外観には、オフィスチェアへの先入観を覆される思いがします。このたたずまいは、一度見たら強く印象に残ります。見たところクッションが薄そうですが、座り心地は硬くないのでしょうか…これが、見た目ほど硬くはないのです。秘密は座面を下から覆っているインナーシェル(芯材)にあります。トリノチェアのインナーシェルにはあばら骨状に70以上ものスリットが入っていて、着座荷重に応じて自在にたわむ仕組みになっています。この結果、トリノチェアは座ると体が浮かんでいるかのような、独特の着座感が実現されています。



 インナーシェルの下部には空間があり、70以上のスリットから排熱されるため、長時間着座しても熱や湿気がこもりにくい構造になっています。トリノチェアは見た目のシャープさ以上に、ユーザーフレンドリーに作られているといえます。トリノチェアはプラス・マイナスのドライバーがあれば解体が比較的容易にでき、座背面やキャスターの交換も簡便になっています。長く使えるトリノチェアです。



 トリノチェアで採用されたスリット式の座面「フロートベンディングシート」と同様の構造は、その後のイトーキ製オフィスチェアにも広く応用されています。「プラオ」「プラオα」「フルゴ」「レビーノ」「エピオス」「エフチェア」「コセール」「ヴェント」「スピーナ」と、イトーキの主要なシリーズがベンディングシート方式を取っています。



おわりに

 トリノチェアは発売から20年近くになる超ロングランシリーズです。リクライニングこそ初期固定と最大固定しかできませんし、座奥調節機能もついていませんが、根強い人気はまだまだ健在です。



 直線的なフォルムのオフィスチェアを見かける場面がありましたら、ぜひご試座くださいませ。そのチェアは、きっとトリノチェアです。